トリクルダウンはおきない




1月20日(火)に共済会館で中小企業家同友会松山支部1月例会があり、駒澤大学経済学部の吉田敬一教授の「今年の景気はどうなるのか!?情勢を読み解く~2015年の中小企業経営戦略を考える~」と題した講演が行われたので、内容をまとめてみる。昨年5月に話された内容とダブっているところもあったので、新たな部分や詳しく解説された箇所のみピックアップしてみる。


1.平成26年に「小規模企業振興基本法」が制定されたが、これは従来の中小企業は成長企業だけを支援していたのだが、地域の雇用や納税(法人税は払えなくても固定資産税などは支払うため)に重要な役割を果たす零細中小企業を支援しようというものである。
例えば東京にある本社を地方に移転したら減税しようというような優遇措置もあるのだが、数年の時限立法であるこの法律でわざわざ地方へ移転する企業などないだろう。
しかも基本計画を作るのは地方だが審査は国。20世紀までは「振興」でよかったが、21世紀は「地域で本当の強みがあるのを探す」ための「深耕」でなければならない。これを地方の実情を知らない霞が関が探し出すことができるのか?

2.なぜ「円安」で大企業や投資家は儲けているのに、中小企業は苦しくなり輸出もさほど伸びてないのか、その説明。
2012年に1ドル80円時代にアメリカに3万ドルで車を輸出してきた企業は、2013年には日銀の異次元緩和で市中に大量の円が出回ることで、1ドル100円となった。そうなると海外で2万4千ドルで車を売れば良いのだが、多くの大企業は世界各地で現地生産していて、その地では日本の円安など関係ないので、販売価格を3万ドルから下げることはできない。だから輸出数量も大して変わっていない。しかし販売した3万ドルを日本円に替えると2012年までは240万円だったものが、2013年には300万円になり販売台数が変わらなくても60万円の儲けが出るということになる。輸出や生産は増えてないので儲けは内部留保や株式等の投資に回ることになり、大企業や投資家は大いに潤っているのだが、海外で現地化などできない中小企業は輸入資材などがかえって高くつき損が出ている。
これが経済の「グローバル循環」というものであり、絶対にアベノミクスで中小企業が豊かになることはありえない。「トリクルダウン」は起こらない。

3.一部家電製品の生産が国内回帰しているのは、重量物は輸送経費が高くついて今日本で生産ラインが空いているのでそれを利用しようというもので本格的な復帰には程遠い。

4.1995年に12パーセントあった日本の家計貯蓄率は2013年にはついにマイナス1.3パーセントにまで下落した。貯金を取り崩して生活している状態である。フランスは15.6パーセント、ドイツは10.3パーセント、アメリカでも2.4パーセントあるのに。

5.法人税減税などする必要があるのか。大企業は租税特別措置法による恩恵があるので大企業ほど現在でも法人税を支払っていない。今更税金を安くしたところで海外から企業は入ってこない。日本の生産コストは高いから。地方創生で「30万人雇用創出」というのは無茶苦茶。頑張って雇用を拡大したら従業員数によって増える「外形標準課税」によって赤字企業でも税を課せられるのだから。

6.巷では「2017年問題」がささやかれている。現在、大量に国債が発行されそれを市中の金融機関が買い支えているのだが、有望な投資物件もないため、資金がダボついている状態。集まっている資金を100とした場合「貸出30 預金70」の状態を預貸ギャップというのだが、この寝かしておいてもしょうがない余った預金で国債の買い支えが行われてきた。しかし今後高齢者の年金額の減少による貯金の取り崩しや若年層の社会保険料負担の増大に伴い預金が目減りして金融機関が国債を買い支え切れない状態が起こる可能性が早くて2017年。そうなるとスーパーハイパーインフレが来る。

7.このような先行きに多くの不安をかかえる中小企業がこれからとるべき道はどのようなものか。自動車や電機製品は万国共通でありこれらはグローバル企業に任せておけばよい。「衣食住」はこれはその国によって違う。量産、量販、合成物質でない感性の優れた商品やサービス(例:京友禅を韓国に下請けしてもらってもうまくいかなかった)文化を甦らせれるは中小企業の仕事。
たとえ機能性が重視の自動車でもベンツなら文化だろう。2000万円クラスのレスサスを作っても豊田市はまだ文化都市とはいえず、そのあたりがベンツを凌駕できない原因ではないか。

8・中小企業家同友会の3つの目的「よい経営者になろう、よい会社をつくろう、よい経営環境をつくろう」という3つの目的を自分の言葉で言えるようにすること。例えば良い会社とは?良い経営者とは?つきつめて考えること。これをバックボーンにして自分の求める理想を作っていく。バックボーンがなければ単なる模倣にすぎない。
ちなみに吉田先生の考えるよい経営者とは 1使命感・志をもっていること2先見性があること3決断力があること ということだそうである。

私にとっては2のなぜ「円安」で大企業や投資家は儲けているのに、中小企業は苦しくなり輸出もさほど伸びてないのか、アベノミクスで中小企業が豊かになれない訳を分かりやすく説明していただけたのが、大きな収穫だった。ほかにも知らないことを多く知り得て貴重な講演だった。