毎年恒例の愛媛県中小企業家同友会主催の秋のイベント、
今年は第7回を数える経営フォーラムが11月20日(火)に松山市総合コミュニティセンターで行われたので、
その時の感想など記しておこう。
まずは、ベルテクネ株式会社代表取締役 鐘川喜久治氏の記念講演から。
鐘川さんは12年前56歳で祖父の起こした会社に後継者として社長に就任したのだが、
その際取引先ごとに売上と原価を徹底的に調査したという。
その結果、大口の取引先では利益を上げておらず、多品種少量の取引先ほど、
利益率が高いということが分かった。
そこで利益の出ない仕事は営業と工場の現場が一緒に協議して改善策を立てる。
いくら改善しても利益が出ない仕事は、ライバル会社に仕事を譲ってもいいといった考えで、
年々利益率を上げていったいう。
5年間で売上ベスト10の30%が入れ替わったが、1社の売上比率を15%以下にし、
取引先が特定の産業分野に偏らないよう注意したそうだ。
そしてこの「原価の見える化の構築」から社員の真の生産性が見えてきたという。
それまでタイムカード上での優秀社員と本当に利益を生んでいる社員の違いが分かった。
賞与や給与の評価の仕方を年功序列から生産性と職務の内容重要性に重点をおいた
職能型給与体系に変えていった。
私が素晴らしいと思ったのは、人事や評価のシステムの改良を、
「社員管理の手段」として使ったのではなく、
「仕事の質も効率も生産性も全ては社員のモチベーション(やる気)で決まる」
のだが、
「社員のモチベーションは自分達で考える経営計画と経営者に対する信頼度に比例する」
といった「社員主体経営」といった地点に到達したことだ。
現在、経営計画書は社員が自主的に作成し、会議で決定するのだがその席には社長は挨拶のみで不参加だそうだ。
経営情報は100%開示し、全社員参加で自社決算書の勉強会もするという。
また、無記名で社員が社長を査定する「経営チェックシート」も作り、
社長が裸の王様にならぬよう気を配っているという。
このような取り組みの結果、労使の信頼関係が堅固なものとなり、
社員が常に仕事の延長線で経営を捉えることで持続的な成長が可能となるということだ。
社員が主体的に仕事どころか経営にまで参画するこのスタイルは、
究極の理想なのだろうが、これは新入社員からパート社員まで参加する決算勉強会が開催できる
この会社ならではだろう。
この事例がたまたまベルテクネ株式会社具現化した奇跡であり、
普遍的に多くの会社で実現できることではないと考える向きもあるかもしれないが、
中小企業家同友会は、経営者と従業員は同格(パートナー)との考えなのだから、
あきらめず目指していくべきだろう。
私は最近10年ぶりに人事評価や考課の仕事をしているが、
これらは単なる「労務管理」の一環ではなく、
社員の能力を大きく引出し会社を発展させることがあるということをあらためて知った。
そして学ぶべきは単なる手法ではなく、「社員と共に育つ」同友会の精神であることを再度確認した。
経営フォーラムは記念講演の後、参加者はそれぞれ4つの分科会に分かれて学んだのだが、
私が選んだのは、報告者が綜合パトロール株式会社の代表取締役 笹原繁司氏、
座長は合同会社 発達の木の代表 今岡健一氏の第三分科会。
タイトルは「社員の可能性を引き出す経営者の責任~多様な社員に寄りそう経営が人材不足難を乗り越えるカギ~」
で、私のお客様もご多分に漏れず人手不足に困っている経営者が多いこともあり、何かのヒントにでもなればと思い参加した。
笹原さんが代表を務めるこの会社は、以前は従業員同士で無断欠勤や遅刻は当たり前、
喧嘩は日常茶飯事と人間関係も滅茶苦茶であったそうだ。
何とか現状を打破しようと藁をも掴む思いで22年前同友会に参加したという。
同友会には大いに刺激を受け、グループ討論や委員会活動をさっそく会社に取り入れた。
しかし、これらの取り組みは最初の3回くらいやったが、従業員は全く気乗りせず、
嫌な感じばかりが残り、そのうち参加者も減っていったそうだ。
これではいけないと文句ばかり言う仕事を終えた社員の自宅に、酒とつまみを持参して話を聞きに行った。
「言いたいことがあったら何でも言ってくれ」と。
彼の口から出たのは
「何で社長はすぐ怒るの、なんであんなに怒鳴るの」
という言葉だった。
その後5~6人を集めて委員会のあり方を相談したところ、
「社長は来ないでくれ、自分たちでやる」
と言われたそうだ。
ここに到って、笹原さんは悟ったのだ。
会社を変えようとするとき、一番変わらなければならなかったのは社長である自分自身であったこと、
今までは「社員をうまく使うことが経営者の力量だ」と思っていたのだが、
もっと社員に寄り添うような接し方をしなければならないと。
今では社員同士、委員会やグループ討論は和やかで笑いあいながら話し合っている。
従業員の中にはかつて生活困窮者、生活保護などの受給歴が長く、
一般社会との繋がりが希薄であってせいでコミュニケーションが苦手なものが多かったりするのだが、
そんな彼らがグループ発表では、一生懸命に前で話そうとしている。
笹原さんは見ていて涙が出てきたと話された。
今では従業員の遅刻は3カ月に1度くらい、欠勤はゼロだという。
笹原さんが話された逸話で一番印象に残ったものを一つ。
「障害を持っている人は相手が自分の問いかけに必ず返ってくることはない。
返事をしたくない時もあるのだ。
『はい』『いいえ』といった返事は大人としては、
必ずしなければならない決まりだとの思い込みがあるがそうでない時もある。
これに似た例で会議をしても何も言わない人がいる。
その人は家で盆栽を育てていたので、自分は興味は持ってなかったのだが、一生懸命盆栽のことを聞いてあげた。
次の会議でその人は発表した。
要は『自分のことを分かっている』人がいないと話だどしないのだ。
『何も意見を言わない』と怒ったところでしょうがないのだ。」
人手不足時代の足音が着実に聞こえてくる今、
これまでは保護の対象であった就労困難者の活用が求められている。
今までの人手不足は景気の循環によるものであり、じっと我慢していればその場はしのげた。
しかし、今の人手不足は人口動態の変化によるものなので、
この先も簡単に解決などしないからこそ、今までとは違ったやり方が求められる。
これまで健常者にとっていた教育・訓練ではストレス耐性の希薄な就労困難者を導くことはできないのだ。
強制や威嚇といった手段ではない、お互いの信頼感をベースにしたやりかた。
これこそが同友会の目指す経営者と従業員がお互いを尊重し共に成長していく経営ではないか、
単なる新しい時代の従業員管理といった小賢しい手段ではなく、
「人間尊重の経営」の素晴らしい一形態であると大いに感動しながら私は思った。