昨日2月21日(火)中小企業家同友会の東温支部・今治支部合同2月例会が利楽にて開催され、東温市のミュージカル劇場「坊ちゃん劇場」を経営している(株)ジョイアートの代表取締役 越智陽一氏より「文化芸術を地域の産業へ ~20年後を見据えた壮大なチャレンジ~」と題した講演を聞いた。
普通は同友会の例会は「報告」なのだが、今回はグループ討論はあっても「講演」だろう。
グループ討論のテーマは「経営理念実現のためにチャレンジしていることはなんですか。
また、したいことはありますか。」だったが、越智社長はじめこの会社の方々は
「三日やったら辞められない役者稼業」というような表現活動の魔性のとりこになっている人々であり、一般的な事業活動の企業理念とは少し違う気がした。
(伊那食品工業株式会社の塚越会長言うところの「経営は夢やロマンではない。もっとまじめなものだ」という言葉を思い出す。別にこれは「坊ちゃん劇場」の活動が不真面目なものだという意味ではない)
で、越智社長のお話の中から個人的に何点かポイントを絞って考察してみる。
「地方で文化芸術活動が事業として成り立つのか」
年間観客10万人が損益分岐点で今までの最高が9万人ということだが、
国の補助金や地元企業の支援などもあって何とか最近は乗り切れるようになったという。
観客の3/4が学校や企業等の団体客ということでまだまだ一般的に浸透しているとは言い難い。
しかし、元々が「市場ゼロ」の愛媛の演劇界で個人客を数千人でも足を劇場まで
運ばせているのはむしろ凄いというべきだろう。
当初は企業などにチケットを売りに行っても、「そんな高尚なものを見る気などない」
とけんもほろろに追い返されていたのを、「一度だけでも見に来てください」
と泣きついて劇場に来てもらったのだという。
また当時の愛媛県知事が文部官僚出身で文化事業の振興に理解のある加戸さんだったことも幸いだったろう。
国の補助金など多くの便宜を図ってもらったということである。
やはり地域や行政との協力は不可欠ということだろう。
というかヨーロッパではそれは当たり前なことで、東温市が先端を行っているのかもしれない。
「文化芸術活動を国や地方が支援する意味や意義とは」
「坊ちゃん劇場」でのミュージカルの上演と並行して、学校などへの出張演劇指導なども行っているという。
色々な事例を話していただいたのだが、中でも特殊学級を指導して立派な劇を上演したことは、本人たちに自立への自信を与え就職への大いなる助けになったこと、
親御さんが舞台を見て涙しながら喜んだということ、
上記は一例だが、地域の人たちに希望や夢を与え、明るい活力を生み出しているのであれば、これは単純にいくら儲けるといった話ではないだろう。
本来行政が予算をつぎ込んでやることを民間が肩代わりしてやっていると考えればいいのだ。
ミュージカルで一年を通して一つの作品を上演することなど日本では坊ちゃん劇場以外なく、
こういった形態は役者のスキルを相当向上させるので、オーディションでも東京の大手プロダクションなどから売り込みが多いということだ。
何より日本で役者で生活できるのは1パーセント、後はアルバイトしながら飯を食っている、
そんな中で坊ちゃん劇場で芝居をすると安いながらも給料がもらえ一年間アルバイトをしないで、生活できる、役者にとっては夢のような世界なのだという。
それを将来的には一段すすめて「東温文化芸術村」を作り、地域外の人に東温市に住んでもらうことによって、地域の満足度やポテンシャルを上げていくことを構想しているという。
「質の良さが不可能を可能にする」
「坊ちゃん劇場」の設立のきっかけは、ミュージカルなど何の興味もなかった親会社のトップが秋田の劇団「わらび座」の公演を高知で見て感動をしたのがきっかけだったという。
親会社での「坊ちゃん劇場」設立を提案した取締役会では12人中10人が反対したが、
初日のこけら落としを見て全員「こんないいものは我が社で是非取り組んでいかねばならない」と考えを変えたそうだ。
第6作目の日露戦争時のロシア人捕虜と日本人看護婦の国境を越えた愛を描いた「誓いのコイン」はロシアでの公演では言葉の分からないロシア人にも感動を与えスタンディングオベーションで拍手が鳴りやまなかった。
やはり中身なのだ。質が悪ければどんなに仕組みや制度が優れていても相手にされない。
なぜ、財政もマンパワーも文化的刺激も、東京などに比べて格段に劣る地方の劇場が
優れたミュージカル作品を作ることができるのか、次回お会いする機会があればその訳を越智社長に聞いてみたい、
おっと、それより私自身がまだ一度も「坊ちゃん劇場」に入ったことがないので、
百聞は一見にしかず、観劇しなければ。