随分遅くなったが、9月30日(金)にホテルクレメント徳島で「平成28年度中国・四国地域協議会 社会保険労務士フォーラム」があり、私も参加したのだが結構興味深い内容だったので、記しておこうと思う。
第一部は大内伸哉氏(神戸大学大学院法学研究科 教授)の「テレワークと労働法・雇用政策上の課題」と題した基調講演だった。「テレワーク」とは「ITC(情報通信技術)を活用して、場所と時間を自由に使った柔軟な働き方」のことである。大内先生は講演の最初で「このフォーラムは何十年か後々に時代の分岐点になったと言われるような大きな意味をもつものになる」と言われた。
そんな先生のお話で私が面白いと思った箇所を抜書きにしてみると
◎労働基準法は大工場での労働者をモデルにしているのだが、テレワーカーは指揮命令関係が不分明であり人的従属性があいまいでその点は労働基準法にはなじまない。しかし労働者は企業と対等な取引ができる訳ではない。人的従属性はあいまいでも、経済的従属性はある。
@政府の立場としては女性や高齢者、介護者、障がい者、をITサービスを活用して外出先や自宅、山間地域等を含む遠隔地など場所にとらわれない就業を可能にし多様で柔軟な働き方が選択できるテレワークを推進している。
@テレワークがなぜ進んでこなかったのか?
1.労働時間管理が困難、「みなし労働時間制」の適用はあるが要件は厳しい。
2.指揮命令の難しさ(直接対面しないことからくる困難性)
3.とくに勤務評価が難しい
@ITCの飛躍的な発達により、アナログ的な発想を放棄する必要が出てくるのではないか?リアル会議は必要か、書類は必要か、その他にも飲み会や「FACE TO FACE」は本当に利益や活性化に貢献しているかを検証する必要がある。
@出張族減るかも?飛行機、ホテル業界に影響あるか、オンラインTVで講義になれば、大学教授が激減する。社労士も似たようなものではないか。ただWEB会議だと場の雰囲気が読めないので、冗談も言えない。
@実際に見て管理しないといけない仕事はテレワークに向かない。成果主義との親和性が高くなっている。
@2030年には自動翻訳が可能になる。本人の多様なニーズに対応可能なテワークの活用により、企業側にとっては人材を集めやすい。労働者にとっても世界中の企業で働くことのできるチャンス。
@定型的な仕事は機械に、非定型的な仕事は人間に、という風になるだろう。知的創造的な仕事が重要を人間が担うことになる。
@ITCを活用した「いつでも、どこでも」働ける社会が実現すると「時間的・場所的・情報的制約のない働き方」ができるようになる。しかし一方で「いつでも、どこでも」働かされる社会になる懸念もある。リアルな職場に集まるメリットをどう考えるか?孤立を防ぐこと、企業のアイデンティティや忠誠心を意識させること、他人との交流により知的刺激を受けること(大部屋主義の利点もある)など。
第二部は「神山ワーク・イン・レジデンスで実践する未来の働き方」と題したパネルディスカッションが行われ、徳島市内から40~50分ほど離れたかつては少子化と高齢化に悩んだ典型的な中山間地だったが、今ではITベンチャー企業の移転やアーティストなどクリエイティブな人々の移住も加速し、2011年の人口動態調査では合併で町が誕生した1955年以降初めて転入者が転出者を上回ったという神山町に実際にオフィスを開いている企業や県庁の関係者のお話を聞くことができた。
東京から移転してきた企業のトップの方が言われるには、今は東京では人の採用がほぼできない、雇用の問題が大きかったそうである。それと東日本大震災を契機としたリスク分散も検討しなければならなかったといことだった。会社でもアナログ的な発想はどんどんなくして21世紀には複合機がなくなり、2010年にはファックスもなくなったそうである。そのくらい徹底しないと東京に対峙して過疎地で企業活動をおこなうことなどできないのだろう。
パネルディスカッションの後は懇親会だったが、料理はどれも美味しく会の最後は参加者全員の阿波踊りで締めくくりとなり、「同じアホなら踊らな損損」というのが実によく分かった。あの踊りは実に気分を高揚させる。実に楽しい社労士フォーラムだった。翌日はパネルディスカッションでも取り上げられた神山町を希望者で見学に行ったのだが、その模様は後日アップしよう。