2022年壺中百年の会in伊那 伊那食品工業株式会社PART1

11月9日(水)は、「人本経営の聖地」伊那食品工業を早朝から訪問、
多くの社員さんが、会社の敷地内の庭園の清掃をしているのに遭遇しました。
前回の訪問が2017年7月ですから5年ぶり、自分としては2、3年くらい前の印象だったんですが、
年齢を重ねると月の経つのは随分早くなるものです。

何も知らない人のために簡単にこの会社のことを紹介しておくと、
長野県伊那市という地方に本社がある寒天の製造という世間的に見れば斜陽産業でありながら、
48年間増収増益増員という業績的には素晴らしい企業です。
最初は大きい円だけどだんだん輪が小さくなっていく、
けれども全体としては面積は増えているという樹木の年輪に例えた毎年少しずつ成長していけばいい、
急成長は悪といった「年輪経営」を標榜されています。

前回は講話は塚越寛会長(現在は最高顧問)にいただいたのですが、今回は2019年2月に代表取締役社長に就任した
会長の子息、塚越英弘氏にお話しいただきました。
印象に残った箇所をピックアップしてみます。

@コロナ禍で外食や菓子業界は大いに影響を受け、当社も2020年、2021年は減収減益だった。
しかし、給料や賞与は毎年と同じように出している。
多くの会社は賞与は会社の業績に合わせて連動させてしまっている。
しかし当社の場合、給料や賞与は経費ではないので、必ず毎年昇給する、
賞与も必ず出す。
当社の目的は「製品やサービスを販売し、利益を上げ、再投資し、売上を上げていく」ことではない。
「社員をはじめ、取り巻く人を幸せにする」ことが目的なのだ。
お金がすべてではないが、今の世の中、できるだけお金が多い方が幸せになるに決まっている。
そうなると人件費を増やすということは、当社の立派な目的なのだ。
賞与に業績を連動させている会社は、利益・売上が目的ということだろうか?

@当社は会社として数字目標は持っていない、
3か年計画、5か年計画もない、
会議の時数字の話は一切出ない。
だから紙の資料もほとんどない。
行政の会議など大量の資料を作る、しかし、ほとんど活用されていない。
それは無駄な作業、ごみを作っているようなものだ。
会議の時に話し合われることは、方針や情報の共有、新製品の発表、部門ごとのミーティングなど。
せっかく集まっているのだから、過去の数字など見せても仕方がない、反省は会議でなくてもできる。
もっとも、個人、部門、支店などの現場現場で数字目標は決めているらしい。
アスリートは自分自身で目標を設定するのでやる気が出る、
人から言われてやることは渋々やるものだ、
自分で考えてやることの方が楽しい、幸せになれる。
人から言われてやっていることでパフォーマンスを阻害しているのかもしれない、
日本の生産性の低さはそこに原因があるのでは。
目標を決めてやるのではなく、少しずつ良くなるようにすればいいのではないか。

@コロナ禍で最近は出来てないが、毎年40年以上社員旅行は海外と国内に交代で行っていた。
社員旅行のルールは1回だけ全員集まって食事をする、後は全部自由行動である。
さすがに複数の行先を会社が決めるが、行きたい場所は社員が選び、幾つかの班を作り、
その班で旅行プランを考える。
全国の多くの支店や部署の社員が集まってプランを考えるので、交流でき仲良くなれる。
合意形成のための訓練にもなる。
自由行動が主なのだが、意外とみんな集まって行動している。
それは決められたプランではなく、自分たちが選んでそうしているから。
1980年代は社員旅行をしている会社は日本中で8割くらいあった。
今は3割くらいか。
それは当然で仕事の時に威張り腐っている上司に、旅先まで気を遣うのはまっぴらごめんと多くの社員たちは考える。
当社では役員は社員を接待するつもりでやれと言っているているから。
日本中でこのような会社が増えたら、インバウンドに頼らなくてもいいのではないか。

@当社は給料は年功序列で横並びである。
やる気のある人が腐るのではないかと言う人がいるし、もっともな意見だろう。
しかし、どのような会社にするのかで組織のあり方が変わってくる。
当社はファミリーのような存在を目指しており、一家の中で格差をつけるかという話になってくる。
評価制度はあるが、ほとんど機能していない。
ただ、まるっきり自由にしているかといえばそうではなく、
最高顧問が掲げた「いい会社をつくりましょう」という理念が方向性なのだ。
近年は入社してくる人はそれに共感してくれる人ばかりなので、
意見の対立はおきない。
ただ、現在社員の間で不満がでないのは、毎年必ず昇給しているから。
上がらなかったら不満はでるだろう。


今回の訪問で私が一番知りたかったのは、カリスマ経営者である(と私は思っているのですが)現最高顧問から、
代表が代わって会社に変化はあったのかなかったのか、
このようなある種特別な会社を継承した心境はどうであったのか、
この2点でした。
塚越社長はこの点についても、明解な考えがあり、

@カリスマ経営者の後を継ぐのは大変ですねと多くの人に言われたが、そうは思わない。
役職を継ぐのではない、「年輪経営」を継ぐ、
華道や茶道の師範が何百年延々と受け継がれているのと同じ。
そもそも役職ではなく役割だと思っている。
社員の生活に気を配るのが管理職の仕事であり、社員のチェックが仕事ではない。
役職登用も基準は「何となく」
結婚相手は理想のタイプと全く違っていることは多々あるでしょう。
何となく成り行きで決まってしまっても、別にいいのです。
採用の基準も「何となく」
最近は共通な考えを持つ人しか来なくなったから、くじ引きで選んでもいいくらいだと思っている。

多くの人本経営の会社が代替わりでうまくいかず苦労している例を少なからず見てきた私ですが、
伊那食品工業さんは問題もなく、おそらく今後も発展し続けるだろうなと私は思いました。
それと今回の訪問で、多くの制度が明確な基準がなく「何となく」決められ、
その発想のもとになっているのが、「家族」という共同体がベースになっているたことは、
とんでもなく衝撃的でした。
これについては、日を改めて書いてみたいと思います。