群馬企業ベンチマーク 株式会社アドバンティク・レヒュース(株式会社ATホールディングス)

令和6年3月27日(水)、「壺中100年の会in群馬」の1社目は株式会社アドバンティク・レヒュースであった。
この会社は2013年に持ち株会社ATホールディングスを設立し、M&Aにより他に4社をグループに加えた。
そして、この日会社を案内していただいたのが、創業者の子、2代目の堀切勇真氏でグループCEOでもある。

ATグループは、産業廃棄物処理の会社ということを聞いていたが、その社屋の中たるや、ウエイトトレーニングのマシン設置のルームあり、ギターやドラムが置いてあるのスタジオあり、
ビリヤードや卓球台、ミーティングルームには抽象画が飾っていてアートな雰囲気を漂わせているといった、あたかもシリコンバレーのIT企業のような社員の創造性を発揮させ、
心の安らぎを得られるよな配慮が十分になされていた。
何の説明もなくここを訪れたら、産業廃棄物処理の会社だと思うだろうか?
堀切社長の案内が終わった後、またご自身による「社員が辞めない会社づくり~『こころの経営』『人を大切にする経営』~」と題した講演となったのだが、とにかく感心したのが堀切社長は、概念を適切に言語化する能力が素晴らしい、
講演の中身は全て素晴らしかったのだが、私が特に印象に残った点のみピックアップしてみる。

◎堀切社長は目指す会社を一言で言えば、「カッコいい会社、業界」だそうである。
それは具体的には、最先端であり、社会貢献もしており、自慢でき誇れるような会社ということらしい。
さらに会社としては、福利厚生が行き届き、休日も給料も同業他社よりも優れているといったところかもしれないが、
社長は社員の誰よりも働き、社員の一人一人に向き合い、言っている事とやっていることが違わない、
見た目清潔で覇気があり、有事の際にもうろたえない、等々その他たくさん、それこそ言語化していた。

◎会社は公器である。堀切家だけ豊かになるのは、確かに資本の論理ではそれは正しいのかもしれないが、
それはやりたくない。
会社は何のために存在するのか、経営者の私利私欲のため、株主価値を極大化するためではなく、
関わる人々を幸せにする、社員とその家族の幸せのために会社は存在している。
「人」「心」「道徳や倫理観」が大切であり、「人として正しいこと」を目指すべきだとする。
私利私欲ではなく、無私利他。

◎在り方 > やり方なのだ。
在り方が土台にないと、やり方だけ与えても機嫌をとっているようにしか受け取られない、
本気の想い、理想の追求、綺麗ごとだと言われようが
「やらない善」より「やる偽善」の方がいい、
最初は偽善でいい、言葉を先に出すと行動が追いついてくる、言行一致になる、綺麗ごとを言えない人の方が問題があるのではないか?

◎会社の経営理念は、「全社員の幸せを通して世の中に貢献(ありがとう)の輪を広げ幸福総和No.1企業を創る」
ビジョンは「The One & Only HERO~1,000人のHERO達」
これは、会社としては今300人ほどの社員数だが、これを1,000人にまでしたい、
しかし、それは規模拡大を目的としているのではなく、一人一人が個性や特技を発揮できる場所であって欲しい、
極端に言えば仕事には直接関係のない趣味や特技でもいい、
会社に音楽スタジオやジムを作ったのもそのあたりを考慮してということだった。
(幸福総和というのもそのあたりにある)

◎正義を押し付けるのは、好ましくないと堀切社長自体は思っている。
しかし、フィロソフィーは超トップダウンで作った。
これが中心にないと会社はやっていけないと思っている。
それに近い人を採用するようにすればうまくいく。
人が足りない時、即戦力でフィロソフィーに合わない人を採用したくなるが、それをしてはいけない。

講演の概略はこんなところか。書き足らないところだらけではあるが。
この会社の特色としては、現社長の父親の先代の創業社長の起業の動機が、
よくある「生活のためやむを得ず」「立身出世や贅沢な暮らしを夢見て」といったものではなかったということだ。
先代社長は日産自動車に勤め労働組合でも活動していたが、あるとき九州への転勤を命ぜられたが家族のことを考え断ったところ、協力会社だった産業廃棄物処理会社に出向になり、さらに出向先の会社が買収した同業会社に事業立て直しのために出向いた。
しかし、そこでいくら頑張っても元請けに利益を吸い上げられる現状に嫌気がさし、頑張って働いた人に還元できる理想の会社を作りたいと、仲間たち3人とともに立ち上げたのが、今の会社である。
「働く人が搾取されない会社をつくろう」という創業メンバーのDNAが現在まで生き続けているという会社なのだ。

現社長はその想いを違和感なく受け継いだところも大きな特色だと思う。
事業継承に失敗する典型的な例として、先代を超えようとして後継者が自分の特色を出そうとして失敗することが多々ある。
現在の社長は創業や倒産間際の苦労はしてないかもしれないが、素晴らしい会社の風土をあるがままに受け入れ、
さらに自分の個性と取り入れて発展させていった。
代を継いでいく、ある意味、理想的な発展形といえるかもしれない。

社内の踊り場のあたりに社員一人一人の座右の銘が英語で書かれているのを見て、大阪のHEADSだなと思ったが、社員をリラックスさせる多くの工夫、垢抜けた雰囲気、そして社長自身がどちらもスマートで格好いいところも一緒だ。
会社に利益が出たから還元するのではなく、当初から「社員への還元、社員の幸せ」を目指すことによって、
現在、7年前(ここは不正確かもしれないが)、社員数は58名→310名、売り上げは19億円から109億円へ、
経常利益は19億円にもなりこれは17パーセント増加である。
しかし、休日は12日増えたそうだ。

それと一点、採用でユニークな点があり、このような素晴らしい会社でありながら新卒採用は、行っていないそうだ。
外の会社で嫌な思いをしてうちに来てくれれば、うちの良さがわかるから。
もしろ履歴書の最後に選んでくれればいいとのことである。
中小企業家同友会をはじめ、多くの企業が新卒一括採用こそ、理想的だと述べていたことに真っ向から対峙する考え方ではあるが、私は3月初旬に訪問したライトライズでせっかくいい感じで育っている学生アルバイトが、学校を卒業してから社会の理不尽さに落胆し、今までの経験が無駄になってしまう例を散見してきたので、株会社ATホールディングスのやり方はなるほどなと思った。

しかし、とにかく見るもの聞くもの、驚きの連続であった。
精神の高揚を感じつつ、我々は伊香保温泉へあと向かった。