人を生かす経営で21世紀型企業づくり

遅くなったが、2025734日に横浜で「中小企業家同友会全国協議会第57回定時総会in神奈川」が開催され、私も参加した。社労士という職業柄この時期はとても忙しく、同友会が主催する三大全国大会のうち、定時総会だけは参加したことがなかったのだが、今回何とか行ける目途が立ったので初参加した。

 

会場のパシフィコ横浜は、全体会も全部で14ある分科会も全て一つの会場で賄えるということで、さすが大都会、インフラ整備も地方とはこの辺が随分と違う。

 

私が選んだ分科会は第3分科会「人を生かす経営で21世紀型企業づくり」がテーマの()吉村の橋本久美子代表取締役社長の実践報告であった。

()吉村は1932年(昭和7年)7月創業の、もうじき創業100年が近い老舗の主にお茶製品の包装資材を扱っている東京の会社である。資材工場は静岡に、営業所は全国に5か所あり、社員数242名(男113名 女129名)という大企業とはいかないまでも中小企業としてはかなり大きい会社だ。

お茶の需要自体はペットボトルで飲む人が多くなり、急須でお茶を入れて飲む習慣が少なくなったことからお茶パッケージの需要は減り斜陽産業であるということだ。今の日本の国民飲料はコーヒーであると。そんな中で橋本社長はどのように会社を切り盛りしていったのか。

私なりに印象的だった点をピックアップしてレポートしてみる。

 

◎橋本さんは小さい時は、逆上がりはできない、跳び箱は飛べない、愚図でダメな人間だった、だからこそポンコツの気持ちが分かる。長所と短所はコインの表裏である。

 

◎斜陽産業のお茶の包装資材メーカーだから、以前は安値競争に走っていが、だんだん相見積もりをして、半年後には他社にとってかわられる、そんな仕事はしたくない、未来を作る、生産者さんの想いをパッケージにのせる、そんな仕事をしたいと思うようになった。

 

◎同友会に入会しても、例会に行って色んな経営者の手法をパクるというやり方を繰り返していて、成文化セミナーは何か理屈が先に立っているようで、参加する気が起こらなかった。しかし、3.11の後静岡茶からセシウムが検出され、売り上げが激減した時、矢も楯もたまらず成文化セミナーを受講した。しかし、心底納得しているわけではないので、当時の同友会の先輩にこう問うた。「企業理念で必要なんですか?それで飯が食えるのですか?」先輩曰く「じゃあ、サンタクロースは何でクリスマスの夜、各家庭にプレゼント配るの?」橋本「それは子供たちに夢を与えるためでしょう」先輩「もし、それがなかったらサンタクロースの仕事は物凄く過酷な深夜宅配業務だよ」

 

◎経営理念は「想いを包み、未来を創造するパートナーを目指します。」         経営方針は、                                   1.私たちはパッケージを通してキラリと光る未来を創ります。(社会性)        2.私たちは、商品への想いが伝わる舞台を造ります。(科学性)

3.私たちは、挑戦して成長し失敗と喜びを分かち合う仕事場を作ります。(人間性)   

(私の個人的見解だが、非常によくできていると思う)

 

◎社員を無理やり言うことをきかせる、成長のステップとして「無関心」→「依存」→「他律」→「自律」の段階を踏んで欲しいとのことだった。まずは「依存」の状態から抜け出してほしいと。

会社の方針発表会は総務部とかではなく、4年目の社員たちにやらせている。おどおどしていて拙いのだが、それをやり遂げることが成長につながる。

 

◎「一枚岩」「一丸となって」と言う言葉に橋本さんは違和感を感じるそうだ。同調圧力ではないかと。大切なことは一人一人は価値観が違うということだ。ましてや社員と経営者は価値観が絶望的に違う。最初そこからスタートしていれば、一瞬分かり合えただけですごく幸せに思える。今ここで分かり合えなくても10年たって分かり合えることもあるのだから。

 

◎当日のパワポでスクリーンに映し出された文章も素晴らしいので紹介する。

 

社員という名前の人はいない

みんなという名前の人はしない

一人ひとりに ちがう名前があるように

一人ひとりは 価値観も性格もちがう粒つぶ

 

でも 経営理念を目指すとき

私たちは 心と知恵を 合わせることができる

 

一人一人の 粒つぶの 物語。

実はそれが 吉村という 会社の

歴史を紡いでいる

 

一人ひとりの物語に 心からの敬意と

ありがとうをこめて

 

◎新人研修の時、自分がはがきを出したい人の宛名を書いてもらう。社長がその人あてにはがきを書く、よくご両親に感謝の手紙を送ったりさせる会社があるが、家庭が崩壊している人もいる。だから家庭訪問もしない。あくまで自分が出したい人の名前をピックアップしてもらう。

 

◎権力を行使しない、社員にはPDCAのうちPから考えさせる。Dから入ると作業になって自分から考えることをしなくなる。会社は社員たちの自主性、自発性を決して邪魔しない、A案とB案で対立したらC案を一緒に考える。自分だけが正しいと思わない。

 

◎橋本社長の考えるリーダーシップ

犬のリードを引っ張るようなものではない、自分をハンドリングするのがリーダーシップだと。昔は社員の誰それがあれをしてくれない、これもしれくれない、の「くれない」族だった。今は仕組化して考えるようにしている。四コマ漫画にしたり、過去にあった失敗・トラブルに面白いタイトルをつけ今後のいましめにしたり。そうはいっても人間だからたまに怒ることはある。しかし、その時も間違っていたらすぐ謝る。

 

◎報告の最後のパワポの画面の言葉も良かったので書き出しておく

 

経営者として大切にしていること(リーダーの姿勢)

 

論破しない(権力を使わない・コントロールしない)

レッテルを張らない(行動にフォーカス・粒つぶ)

解決策で戦わない(それぞれの願いを伝え合う)

 

人を生かす経営

 

粒つぶが生きる経営

生かし生かされる経営

 

 

結構、書いていることが重複しているようなまとまりのない文章になってしまったな。報告の中身は、賃金の中で手当制度を変更した際に社内でどのようなプロセスを辿って行ったかとか、「植田方程式」「均等還元金」「想いをつなげる就業規則」など実務に大変参考になるお話がたくさんできてきたのだが、今回は割愛することにする。

報告のあとのグループ討論も、私がかつて参加した全国大会の中でも一番の内容のように思えた。私自身も討論中ダメ出しをくらったが、それも良い経験だった。

 

分科会の座長の望月さんが「橋本さんはこれだけの素晴らしいことをやっている凄い経営者なのに、少しも自然体で飾るところがない」と最初の挨拶で言っていたが、まさにそんな感じ、本音をズバズバ言っても偉そうな感じが微塵もない、立派な方だと思う。

会社見学会なども不定期的にされているようで、機会があれば参加して社労士としては、

条文のとなりに社員向けに社長の想いが書かれているという「想いをつなげる就業規則」を見せてもらいたいものだと思った。