ひまわり市場の奇跡
愛媛県中小企業家同友会 伊予松前・松山支部11月合同例会が11月14日にTKP松山市駅前5Fで開催され、支部例会では異例の100人を超える参加者があった。
報告者は山梨同友会の幹事、(株)ひまわり市場 代表取締役 那波秀和さんで、私は不勉強にも存じ上げなかったのだが、カンブリア宮殿など多くのメディアに取り上げられる有名な経営者であった。
当日、私は受付担当で最初の20分ほどを聞き逃していたのだが、残りの時間の内容は聞いたので、
その内容で印象的だったことや考えさせられた点など記しておこうと思う。
知らない方のために(株)ひまわり市場のことについて説明しておこう。
スーパーマーケットひまわり市場は、山梨県北社市という八ケ岳のふもとにある地方都市にあるのだが、
現在多くの地方スーパーが大手資本の流通店に押されて廃業を余儀なくされている今、12期連続増収増益を達成している素晴らしい企業である。
社長自ら売り場で行っているマイクパフォーマンスや独創的なPOPが有名だが、ここまで来るまでの道のりは平たんなものではなく、そもそも那波社長はこの会社は中途入社で、大学卒業後新卒採用されたのは、ヤオハンだったが倒産後は山梨県の魚市場に転職、その時に当時のひまわり市場の社長に誘われて入ったのが、ひまわり市場だったという。
そこで店長をやり、社長に抜擢されたのだが、当時ひまわり市場は借金だらけで倒産寸前、負債金額は実に4億円、那波社長はオーナー経営者ではないにも関わらず連帯保証人になり、ようやく金を借りることができたというような、就任と同時に資金繰りに追われる毎日だった。
このままでは間違いなく破綻する。
考え抜いたあげく、当時は週三回チラシ広告を入れ安売りをするというやり方を「これでは大手に勝てない」として、「価格以外の努力」を全てやろう。と言う風にあらためた。
ノルマも廃止、そんなことで悩む時間があったら売り場に立とう。当然チラシも止めたという。
しかし、大きな方針転換をした後も、お客さんの数は減らなかったという。
安売りをしてないから利益は残り、結果2000万円近いお金が会社に残るようになった。
このやり方に自信を持った那波社長は、どこにも売ってないものを集め、いいものを仕入れる目利きのスタッフを少しずつ入れて現在のスタイルになったという。
では良いものを見極め集まったとしても、それを定価で売り切るには、どうすればいいのか?
並んでいる商品は言葉を発しない。
ただ並べていても、簡単には手に取ってはもらえない。
そのための工夫がポップでありマイクパフォーマンスによる商品紹介だ。
「並べるだけなら1の売り上げ、POPで3倍、魂のマイクパフォーマンスで10倍!」
POPも店内放送も、売りたいというのが根本にはあるけれど、
売り手の自分たちが楽しんでいる、
マイクパフォーマンスもあれをやると自分のテンションがあがる。
例えば「松山揚げ」だと南極基地の隊員に温かい味噌汁にそのまま入れて飲めるようにした、
といった物語をしっかり商品説明の中に入れることで売り上げは3倍になった。
大手スーパーは「いつまでにいくらで何百ケースもってきてください」というやり方だ。
ひまわり市場は値段は生産者さんに負けてもらうことはしない。
値段は生産者さんに決めてもらう。
その代わり売れなかったら、その値段に見合った作物になってないということだと伝えている。
八ケ岳と言う大きな別荘地があり、北社市は都心からの移住者が多い地域なので、美味しいものを知っている住民が多いという点もこのようなスーパーが成り立つ理由にはなっている。
移住して農業をやっている人も多く、そういう人は小規模有機栽培系の人たちが多い。
そういう人たちにそれに見合った商売をしてもらいたい。
移住して農業をはじめた方がうまくいかなくてまた都会に戻ってしまうということになると、それこそ地域の損失になる。
山梨は海がないのだが、魚は九州、富山からは直接浜から仕入れている。
ノドグロやクエが山梨で食べられるのだ。
別荘に住んでいる舌の肥えた二拠点生活者は、
「こんな山の中でこんなものが手に入るのか」と驚いている。
ひまわり市場を見て伊豆に移住する予定だった人が、北社市に移住先を変えた例も20人は知っている。
ここが地域に人を寄せる磁石のようなきっかけになればと思っている。
最後は那波社長は「笑顔あふれる社会にしたい。
働くスタッフが生き生きとしていれば、会社の売上は必ず上がる。
全ての会社が人を大切にし売り上げが上がれば日本中のみんなが笑顔になれる。
それを成し遂げられるのはトップの情熱次第、
企業は社長以上にも以下にもならない」
という同友会のお決り的なまとめではあったが、
私自身は他にも考えさせられる点が幾つかあり、その点について述べてみよう。
小売店は大手資本のスーパーマーケットに代表されるように、
低価格、大量仕入れで地方の市場を占有してしまい、
多くの地域の個人商店を廃業に追い込んでしまう。
生産者は大量に品物を作っても値段を叩かれ、儲けは極めて薄いということとなる。
若者はそんな地方の有様に失望し、故郷を後にして二度と帰ってこない。
合理化や機能性を追求することが近代経営学の手法でそれが今でも正しいと一般的には思われているのだが、
結果、それは人を幸せにしたのか?幸せになったのは一部の上級国民だけではないか。
そして今、大手スーパーだけではなく、ネット通販の進化によってリアル店舗は次々潰されている。
那波社長は今こそウチの出番だと感じているそうだ。
本来、買い物は楽しいものだが、ネットは文字と画像と動画しかない。
生きた人間がいない、ひまわり市場は品物ではなく、人を売っている。
人に会うにはリアル店舗に行くしかないのだから。
あるネットの特集(ツクルゼ、ミライ!行動系ウェブマガジン[DRIVE]2017年5月25日号)で那波社長にインタビューワーが
「いいお店とはどんなお店でしょうか?」
と問いかけたところ、
「みんなが幸せになるお店ですかね。だれかを踏み台にするとか、搾取するとかではなく、作った人、運んできた人、売る我々、食べるお客さん、みんながそんなに大きく儲かるわけではないけれど、必ずメリットがあって幸せになる。そういうお店を目指していますね。」
(中略)
「お客様は神様じゃなくて王様だと。王様は何をやってもいいわけじゃない。道に反していたらダメ、権力を失いますよね。ここはなかなか、スタッフにも分かってもらえないところで。
どうしても買う側の優越感のようなものがお客さんにもある。
スタッフにも『仕入れてやっている』という意識がどこかにある。そうなると無茶を言われても、川上がガマンしてしまったりする。そういうのを、ゼロにはならなくても、だんだんなくしていきたいんです。」
伊那食品工業の塚越会長の「競争しない経営」と酷似しているし、坂本光司先生の「5人に対する使命と責任」にも通ずる。
今回の那波社長の報告は、倒産寸前の地方スーパーがまるで成城石井のような店を作り、大成功させた奇跡のような逆転ストーリーといえる。
しかし、私はこの店のPOPの一つ「旬を味わうこと。それは我々人間の貴重な権利と義務」など見ると単なるユーモアというより、もっとドロドロした情念のようなものを感じてしまう。
それは「規模ではAmazonに勝てませんけれども、でもここに来たらAmazonに負けない。そのくらいの覚悟でやっています。」
といった那波社長の強烈な自負心と、安売り商戦で倒産寸前まで追い込まれながらも生き延びた反骨心のようなものを、
私が勝手に想像してしまうからかもしれない。