2024年12月10日香川県三木町のトレスタ白山にて「人を大切にする学会 第11回四国支部フォーラム」が開催され何社かの自社の実践事例の講演、坂本光司先生も短い時間であったが、お話をされた、私も参加してきたのでその模様をあまり詳細に書くことはどうかと思うので、なるべく簡潔にレポートしてみよう。
最初の講演は香川県多度津町で油圧式ユニットの設計・製作を行っているユニコム株式会社という企業で、多くの中小零細企業が求人難・人手不足に苦しんでいる中、ここ3年間で21名入社し、3年間で離職率ゼロという素晴らしい会社である。
社長の藤原康雄さんは、創業家である藤原家の婿養子で前職は別の仕事をしていて、そもそも社会人の最初の職場で昼夜問わず仕事をしていて頑張ったのに、突然不況のためリストラされた、その体験がその後の人生に大きな影響を与えたということだ。
長らく再就職しても、内にこもって誰にも相談せず仕事を独断ですすめ、世を拗ねていたようなところがあったという。
その後、現在の奥さんと出会い、ユニコム株式会社へ転職、2021年に社長に就任したのだが、以前のユニコム株式会社は仕事はたくさん受注していたものの、一部の人に仕事が集中し、コミュニケーションがとれていない、殺伐とした雰囲気だったという。それを「人を大切にする経営」に取り組んで今では利他の精神に満ちた会社になったという。
一例として、古参の部長職がユニコムの成長についていけないので辞めさせたらどうかという話があった時も、藤原社長は「一人も辞めさせない。」と言い放ったそうである。彼らだって悩んでいるのだから、代わりに古参部長を成長や変化の渦に巻き込んでいく、その渦は前向きで明るいものにする、というやり方を行っているそうだ。
これは凄いと正直思った。人本経営でも初期の段階でどうしても人本経営になじまないようなベテラン社員は辞めてもらうのも仕方がない、というようなことにはなっているが、藤原社長は自身の体験からリストラがいかに個人の人生を狂わせ、心に傷を負わせるのかを理解しているのだろう。他人は、首にしたような会社などさっさとこっちから辞めてしまえ、「リスキリング」だ「再チャレンジ」」だというが、失恋のことなど例にとってみれば理解できると思うが、簡単に「はい、さようなら」で解決できるものではなく、未練と不満がつのり中々立ち直れるものではない、下手をすれば恨みに転化する。仕事の方が人生を賭けているので、リストラのダメージは大きいのではないか。
その裏返しで「採用」に関してもかなり手間をかけていて、パートさんでも3時間くらいは面接し、その時は包み隠さず話し、面接も実際に求職者が働く部所長が面接し、納得した上で入社するので辞めないそうだ。配属後もメンターが他部所からつきそってフォローして、一定期間ごとに研修も入れるそうである。
お話された一部であるが、記してみた。素晴らしい会社とその取り組み大いに勉強になった。
二人目の講演者は高知の社会保険労務士法人久万田社会保険労務士事務所 久万田昌弘先生だった。同業者だからお話の内容はすこぶる興味はあった。ご長男だから家業のご商売を継いで社長をしていたが、弟に会社の実権を奪われ退社、社会保険労務士試験を受験し、合格してから開業したそうだ。世代も同世代、開業したのも30代後半と私と似た方なのだが、方や事業規模は高知ナンバー1の社労士、こちらはしがない愛媛の社労士であって、この差はどこから生じるのかと言えば、「夢の大きさが、その人の器を決める」ということなのだろう。久万田先生は開業した時から、「高知でNO1の社労士になる」と決意し、何と今でも毎日3時に起きて4時には事務所に行き仕事をしているという。
凄すぎる、私は愛媛でNO1の社労士になりたいなどと思ったことはないし、毎日4時から仕事朝4時から仕事をするのはクレイジーだと思うが、これがその差になるのだろう。急成長の危うさはやはり経験したようで、5年前から退職者が続出、退職願を丸めて投げつけられたこともあったという。
しかし、そこからが久万田先生の偉い所で、年次有給休暇の取得率を100パーセントにすると宣言、100パーセントにはまだ届いてないが、社員自身が自主的に業務の効率化に取り組んでかなり取得できるようになったという。給料計算も締切日から20日以上空けるようにしてもらったという。給料も(賞与も含めてだが)、年収は年齢の15倍支払いたいと宣言しているそうだ。
とにかくいいと思ったことは躊躇しない、行動が速い、果断である、今までは自分は傲慢経営者だった、自分自身の人間力を高めるしかないと思い心の器を広げるよう努力をしてみたそうだ。「怒らない、イライラしない、心の余裕を持つ」といった点に気を付け日々過ごした結果、昔、会社から自分を追い出した弟とも和解することができるようになった、そうである。弟は5年前に亡くなったが、もし、和解できてなければ、自分は一生悔いを残して生きていかなければならなかっただろうと、本当に良かったとおっしゃっていた。
強烈な個性とエネルギー、私とは全く異なるタイプの方だが、日々の心構えなど教わることも多かった。懇親会時に挨拶したが、今度は是非高知で一杯やりましょう、とのお誘い、是非、実現したいものだと思った。
最後の講演はお待ちかねの坂本光司先生、今さらながらではあるが著書「日本でいちばん大切にしたい会社」シリーズで多くの人々に希望を与え、法政大学を退官された現在は「人を大切にする経営学会」の会長である。時間が押して30分ほどのお話であったが、色々とためになる情報、教えが満載であった。とりあえず話された内容を列挙してみる。
◎残業代が減らないと嘆いている経営者は基本給が安すぎるのではないか。残業手当が生活給になってしまっているのでは?40時間分の残業手当を基本給に入れるようアドバイスしたところ見事に残業が減った事例がある。
◎社員旅行に参加者が少ない、どうしたらいいか?行先は社長が決めている?宴会の時社長が上座に座ってる?そんあんじゃだめ、管理を社員に委ねなければならない。
◎社長は社員にどれだけ気配りできているか?100人くらいの会社なら社員の一人一人に声をかけること。それも「おはよう」だの「ご苦労さん」などのありきたりの言葉ではいけない。「お母さん、体悪かったそうだが良くなった?」とか「お子さん大学に受かって良かったね。これから大変になるかもしれないが、困ったことがあったら何でも言ってくれ」などという個別具体的な内容で声がけすればいい、そうなると社員のモチベーションは否が応でもあがる。
◎就職活動に臨む学生たちには言ってある、「会社の規模で選ぶな、業種で選ぶな、給料で選ぶな、休みで選ぶな」「会社の情報はホームページだけでなく、会社に実際行ってみて、現場で汗を流して働いている人たちの表情、会社の雰囲気を感じ取れ」と。大学の就職課は大企業、銀行、公務員に入れたがる。自分の教えた学生たちは金融機関・経営コンサルめざしても、地方の信用金庫や商工会の経営指導員などに就職する。
◎社長と社員は役割が違うだけ。社員は社員の仕事、課長は課長の仕事をするだけ。毎月平社員を役員会に出席させた企業がある。出席した社員はレベルが上がった。だから社長が社員に比べて格段に偉いとか能力があるとかいったことはないのである。
後の懇親会では、私がベンチマークに参加したことがあるレジェンド企業の方々とも久しぶりに会うことが出来、ご挨拶できた。GCC四国の案内も何名かの方にはさせいただいたが概ね好評でありがたかった。来年は愛媛でこのイベントがあるようだが、予定があえばぜひ参加したい。