「キンミヤ焼酎」株式会社宮崎本店の代表取締役会長の宮崎由至さんの報告

2024年7月26日金曜日、松山市コミュニティーセンターにて愛媛県中小企業家同友会の伊予松前支部と松山支部の合同7月例会が開催されたのだが、報告者がキンミヤ焼酎で有名な株式会社宮崎本店の代表取締役会長の宮崎由至さんで「革新し続ける100年企業の戦略~『正しい情勢認識』と『生きた経営理念』~」というテーマでのお話であったが、すごく分かりやすいのに、ストーンと腹落ちするような内容で素晴らしかった。で、この日の学びをシェアすることにしてみよう。
〇当社(宮崎本店)も中小企業なので、最初は全く新卒採用が出来なかった。新卒がくる会社にしたいと思った。中小企業のいいところは決断力が早いところ、大企業だと稟議を役員に回していたら10か所くらい押印せねばならず、良いアイディアも中々に進まない。
例えば企業の「奨学金変換支援制度」というものがあるが、2022年にスタートしたこの制度三重県では真っ先にとった。この制度は学生時代に日本学生支援機構の奨学金を受けていた社員に代わって企業が奨学金変換を行う制度で、実質給料の別払いのような形であるにも関わらず、報酬に含まれないので所得税も社会保険料もかからないので社員にとっては大変お得、会社に所属している限り返済してくれるので、人材の定着にもなる、企業にとっても損金で計上できるし、会社のイメージアップになるという結構な制度なのだが、愛媛ではまだ3社しか採用してないという。いいことはどんどんやるべきだ。
〇「見える未来」と「見えない未来」がある。明日の株価、こんなものはプロの投資家しか分からない、いやプロの投資家でも予測は普通に外れる。しかし、運送業の「2024年問題」、これは何年も前から分かっていたことだ。分かっているのに目を閉ざす、そうゆう人に限って「業界の問題」だという。苦しくなったら「業界」が助けてくれるのか?そういった瞬間に負けである。
この話も私にとっては「あっ、なるほど」という感じだった。同友会には「外部環境のせいにするな」とは、ずっと言われてきたのだが、上記の例えでより理解が深まった。人間は都合の悪いことは、目を背けるもの、でもそれではいけないのだ。
〇大企業と中小企業の違いはどこになるのか。大企業の経営者は有期、中小企業の経営者は無期であることが大きな違いである。大企業の経営者は自分の任期の間に株価を高くした経営者が偉いのである。そしてその功績に報いるために任期が終わると高い退職金をもらって辞めるのだ。中小企業の経営者は、そもそも自社の株価に興味はない、親族で株を保有しているのでどうでも良いことなので、株価に興味を持つのは親が死んで相続税の手続きが必要な2代目くらいだろう。
株価を上げようと思えば、リストラして設備投資を止めれば確かに利益は出るだろう。しかし、次の代の経営者は大変だ。次世代への投資を怠ったことで東芝もシャープもみんな潰れた。同友会では「苦しくても毎年人を採りましょう」と言ってきている。長いスパンで経営を見ていかないとだめだ。
〇商品の値段を自社で決めるのは多くの場合、難しい。同業者や小売店やお客さんの様子見している。一時期、酒のディスカウントストアには、4L焼酎が2200円で置かれていた。酒税が1100円、これでは万年赤字、こうゆう状態を「ゆるやかな自殺」という。こうゆうレッドオーシャンから撤退しようと決めた。しかし、7割の売上が減ってしまう見込みだった。こうゆう決断は経営者しかできない、戦略は経営者が決める者だ。逆に戦術は現場で生の情報に接している社員が考えるものだ。
値段のことで言えば飲食店は大手の全国チェーン店は相手にしなかった。個人のお客さんとつながりを持った。大手はお店の店長ではなく、本部が値段を決めるから。宮崎本店にとってお客さんとは誰か?お酒を飲んでくれる個人のお客さんだ。では問屋さんやバイヤーはどういった存在?彼らはビジネスパートナーだ、これを分けて考えないとダメ。
〇ブランドには3つの種類がある。自社商品をブランド化しようと考えた時、社員にブランドのイメージを問うてみた。彼らは「月桂冠」や「キリンビール」と答えた。「だって、キンミヤ焼酎なんて一部の人しか知らないが、月桂冠やキリンビールなら日本人みんなが知ってるでしょう」と。これらはブランドの種類でいくと「ナショナルブランド」であり、ビジネス用語でいえば「コモディティー化」(一般化)ということで、それは資本力と資金力がある大企業が目指すべきもので中小企業が入っていく世界ではない。車の車種で言えばトヨタカローラか。もう一段高いレベルのブランドが「プレミアムブランド」、ベンツやBMWやレクサスなどの高級車だ。さらにその上をいくのが、「ラグジュアリーブランド」、マセラッティやポルシェなどの車は値引きしたからってお客さんは買わない、カルト的なファンがついている。社員にはせめて心は「ラグジュアリーブランド」でいこうと意思統一した。共通言語の再認識が必要で、これがないと戦略戦術がバラバラで幾ら努力しても思ったように結果が出せないということになりかねない。
〇宮崎本店は3つの一番を目指している。ナンバーワン、オンリーワン、ファーストワン、その中でファーストワンは業界で最初にやるということで、「奨学金変換支援制度」などもその一つになるが、昔、業界初の週40時間の労働時間を達成した時のエピソードが面白かった。到底週40時間などやれると思えなかったので、当時週37.5時間制にしていた隣県の「未来工業株式会社」にどのようにしたら時短を達成できるか教えを乞いに行った。社長の山田昭男さん曰く「お前のところは株主いないだろう、だったら誰も邪魔するものがいないじゃん、経営者がやると決めたらいいだけだよ」、しゃくにさわったので、帰ったらすぐに週40時間制にして、再び未来工業に出向いた。内心は褒めてもらえることを期待していたのだが、山田さんの返答が「お前の所は楽な業界やな、そんなことで業界初になれるんか」
今度は宮崎さんは怒らなかった、と言うか目からうろこだったという。なんでも業界初を目指すことは世間のイメージアップと社内のモチベーション向上には確かにうってつけだろうなと私も思った。
報告の後は活発なグループ討論をえて、グループ発表の時に米田代表理事が「ブランドは理念にやどる」とはいい言葉だなと思った。まずは確固たる「企業理念」が根底にないとブランドの確立などありえないのは確かだろう。
懇親会でキンミヤ焼酎をしたたかに飲み二次会まで行って寝床に入ったのが、午前4時、正直二日酔いで今もフラフラで何もする気がしなかったが、何か生産的なことをしなくてはと思い昨夜のことをまとめてみた。それにしても宮崎さんのお話は例えや比喩が的確で分かりやすかった。経営者の仕事はうまく社員に説明できる力、言語化が大切だが、その素晴らしいお手本のような報告だった。